そのメール、本物ですか?――公式メールが“怪しい”これだけの理由
要約: 技術的検証(SPF/DKIM/DMARC)は「本物」でも、中身が“典型的なフィッシング詐欺”のようで、私は最初「偽装メールだ」と誤判定しました。ライトユーザー向けに最適化されたコピーは、攻撃者にとっても最適な“餌”になります。
ケース概要と前提
2025年9月に Microsoft Rewards から届いた懸賞告知メールを受信しました。メールヘッダーの検証では SPF/DKIM/DMARC すべて pass で、送信基盤ドメインも customermail.microsoft.com
系。技術的には正規送信と判断できます。
しかし本文は煽情的・翻訳崩れ・不可視文字の多用など、典型的なフィッシング詐欺の兆候を強く帯びていました。Microsoft コミュニティでも customermail.microsoft.com
経由の Rewards 告知に関する相談は多く、真偽確認に迷う声が目立ちます。
怪しく見えた具体的なポイント
- 煽情的なコピー:「賞金額アップ!当選者数アップ!楽しさもアップ!」の連打は クリック衝動を狙う典型的な手口です。米国 FTC も「緊急性・得すぎる提案」はフィッシングの定番だと警告しています。
- 不可視文字の多用:ゼロ幅スペースや結合抑制子(U+200B/U+200C)、ソフトハイフン(U+00AD)はプレビュー崩しや検知回避に悪用されます。
- 翻訳の崩れ:「terms here」など英語断片が残り、公式感を損ねる要因になっています。
- 内容と関係のない安っぽい画像:中身と無関係なビーチ写真にロゴを載せただけの構図は、広告収入目当てのブログでよく見る手法に似ています。
- 固定レートの換算表記:1,000,000 USD → 147,325,000 JPY のように切りの良すぎる数字は「本当に正規の計算?」という不信を生みます。
私はこれらを見て、最初は完全にフィッシング詐欺だと思いました。ヘッダーを確認して冷静になってからようやく「正規っぽい」と判断できたのです。
なぜ公式メールが“怪しく”なるのか?
ライトユーザー向け(マーケティングの視点)
- 目的:瞬時に行動させる(開封→クリック→参加)
- 成功指標(KPI):開封率・クリック率・参加率
- 戦術:高額賞金や〆切など「感情に刺さる」表現を多用する
システム管理者向け(セキュリティの視点)
- 目的:誤クリックを減らすこと
- 成功指標(KPI):誤クリック率↓・誤検知率↓・インシデント率↓
- 戦術:緊急性・高額報酬・不可視文字などを検知のレッドフラグとする
つまり、広告とフィッシング詐欺は“数字を伸ばす”という合理性の下で見た目が似てしまうのです。公式の「チープなコピー」は、攻撃者の悪手とほぼ同じ形をとることになります。
技術的検証メモ
SPF/DKIM/DMARC は、メールが「正規のサーバから送信されたか」をドメイン単位で確認する仕組みです。
- SPF:送信サーバ IP がドメインの許可リストにあるか確認する(RFC 7208)
- DKIM:本文とヘッダーに署名を付与し、公開鍵で検証する(RFC 6376)
- DMARC:SPF/DKIM の結果と From ドメインを照合し、受信側の処理方針を決める(RFC 7489)
注意すべきは、SPF/DKIM/DMARC が「合格」しても本文内容の正当性までは保証しないことです。
Redditに見る“世界的な違和感”
Rewards 関連のメール品質や引換不全について、Reddit では辛辣な意見が繰り返し投稿されています。
- “Total scam … redeem しようとすると there is a problem”
- “Microsoft Rewards is a scam” と断じる投稿も多数
※ いずれもユーザーの主観的意見ですが、「公式メールが詐欺にしか見えない」という感覚は世界共通であることが分かります。
読者向け:安全に判定する最短手順
- ヘッダーを確認:
spf=pass
,dkim=pass
,dmarc=pass
が揃っているか、From/Reply-To/Return-Path が一致しているかをチェック - 本文の誘導表現を疑う:高額・至急・限定・期限直前は要注意
- リンクは直接開かない:公式サイトを自分で検索してアクセスする
- 不可視文字を想定:見えない文字で可読性や検知を崩しているケースがある
- 啓発とフィルタリング:社内で共有し、不要な広報メールは仕分ける
まとめ:公式メールが攻撃の“お手本”にならないために
- SPF/DKIM/DMARC が pass でも、本文の正しさは保証しません
- ライトユーザー向けコピーは、攻撃者の手法と収束してしまう
- 私は最初、完全にフィッシング詐欺だと思った――この体験は「雑な公式メールがセキュリティリスクを増幅させる」ことを示しています。
願わくば、「賞金額アップ!」の熱量が、“フィッシング被害率アップ!”に化けませんように。